Riven
「なあ、市本。今日放課後ヒマ?」
「……ワリィ。今日は無理」
「そっか。ならいいや」
あっさりと土屋は引き下がった。もともとこういうやつだ。他人に強要はしない。
あちこちで囁くようなやりとり。メモの類が回っている。
6限目の古文なんてこんなものだ。前では墓場からやってきたかのようなじいさん教師がもごもごとしゃべっているが、誰も話なんか聞いちゃいない。
放課後をどう過ごすか?
誰もがこのことだけを考えている、そんな時期。
夏もすぎて気温も日差しもだいぶ柔らかくなった。過ごすには一番いい時期。
本当のことを言うと、土屋の誘いを断る理由なんてなかった。
「ただなんとなく」
これだけ。
毎日目一杯遊ぶには町は狭すぎたし、ひとりになりたい時だってある。
「ただいま」
誰もいない家に帰り、そのままベッドに転がって天井をぼーっと見上げる。
迷走する思考。ぼんやりと思い出す今日の出来事。
3限の間中、教室の中をトンボが飛んでいた。学食のカツ丼が売り切れてた。飯島が椅子から転げ落ちた……
これ以上ない日常を過ごした気がする。平和という文字がぴたりとはまる、そんな1日。
「そろそろ飯の用意をするか……」
一人暮らしでひとりごとが増えるのは仕方がないと思う。
冷蔵庫をあさり、適当に夕飯をでっち上げる。もう、慣れた。そのうちレシピ本でも出そうかと思う。
だが、料理の腕がいくら上がったとしても一人で食べるのはやはり味気ない。沈黙の中で食事するのは耐え切れない。
よって、テレビが不必要につきっ放しだ。キャスターがニュースを読み上げているが、顔なんかもちろん見ていない。自分以外に声がしていれば、それでいい。
お茶のお代わりを入れようと立ち上がると、テレビから耳障りな音が聴こえてきた。臨時ニュースを知らせる音だ。
「なんだ?」
とりあえず足を止めて画面を見る。中継先の農園の上部に表示される無味乾燥の文字の羅列。
「約一ヵ月後に地球が滅びる危険性」
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"Riven",a tiny love story's here