案の定、次の日の学校は大騒ぎだった。
クラス中がこの前代未聞のニュースにうわつく中、俺はさっさと窓際の自分の席につくと、机に突っ伏した。
今日の夜に総理大臣だかが会見を開いて事態を説明するらしい。
会見で何かが変わるかどうか、端から期待はしていないが、少なくともそれまではどう騒いでも事態はひとつも進まない。
それだけは確かだった。
昼休み、何とはなしに屋上に上がった。
教室のざわついた感じには、どうにもなじめなかった。
手すりにもたれて座り込むと、何とはなしに空を見上げながらおにぎりをほおばる。
上空は風が強いのか、雲が結構なスピードで流れていた。
「ふぅ」
手持ちのおにぎりを食べ終わり、一息つく。と、右側の給水塔の影から女がこちらの方へ歩いてくるのが目に止まった。
向こうもこちらに気づいたらしく歩みを止める。
俺はそいつに見覚えがあった。同じクラスのやつだ。名前は確か、河合。
俺は座り込んで顔を向けたまま、河合は少し驚いたような顔でこちらを向いて立ち尽くしたまま、そのまま時間が流れる。
「……よぉ」
仕方がないのでこちらから話し掛ける。
河合は…無言。
「何やってんだ、こんな所で」
ごくまっとうな質問だと思う。だが。
河合は…相変わらず無言。
瞳がかすかに、泳いだ。
なにか、悲しそうな目が一瞬よぎった。
河合の後ろに広がる空の蒼さがやけに目に付いた。
「……なんでも、ないよ」
届くか届かないかというような、小さな声。河合の方を向いていなかったら、聞き逃していたかもしれない。
「…そうか」
会話終了。
再び沈黙。
気まずいので視線を下げる。いまどき珍しく、白い普通のソックスをはいていた。
「市本君は…何してたの」
相変わらず小さな声。けれど前よりは大きい。
俺は顔を上げると、コンビニおにぎりのビニールを掲げて見せた。
「めし」
「…そう」
いつの間にか河合は俺のすぐそばまで来ていた。そのまま俺の目の前を通り過ぎる。
風にあおられる雲と同じぐらいのスピード。
「それじゃ」
小さく言って、出入り口のほうへ歩いていく。
俺は、無意識のうちに声をかけていた。
「なあ、世界、滅びるってよ」
……
河合は立ち止まると顔だけこちらを向けて、何かを呟いた。
何を言ったのかは聞き取れなかった。そのままで入り口のむこうへと消える。
俺はよくわからないままため息をついて、もう1度空を見上げた。
あきれるくらい、空は蒼かった。
"Riven",a tiny love story's here