Riven

Back

「河合ってどんなやつ?」
 俺の問いかけに長塚は一瞬きょとんとした顔をみせて、それから言った。
「河合…って、同じクラスの河合さん?」
「そう。同じクラスの」
 長塚は「へえぇ」とつぶやいてから答えた。
「市本君てああいう人がタイプだったんだ」
 何かを納得したかのようにうんうんうなずく。
「違うって。今日たまたま屋上で一緒になったんだ」
「屋上?」
「そう、屋上だ」
「河合さんのことなんか知って、どうするの?」
「別に。どうもしない」
「ふーん。ま、いっか」
 まだ疑わしげだったが、とりあえず納得したようで、長塚は話し始めた。
「私もそんなに詳しいわけじゃないけど、確かお母さんと二人暮らしなんじゃないかな。前にそんなことを聞いたよ」
「なるほど」
「知ってると思うけど、地味な子だから、友達とかもほとんどいないみたい。いつも一人で座ってボーっとしてる」
「それは知ってる」
「後は・・・そんなに思いつかないなぁ。何か聞きたいこととかある?」
 机に腰掛けて長塚はこっちを見上げた。
「家はどの辺にあるんだ?」
「確か北のほうに帰ってたと思うけど・・・って、家の場所なんか聞いてどうするの?」
「いや・・・どうもしないけど」
 学校より北側にはあんまり家はないはずだ。
 歯切れの悪い俺の答えに長塚は小悪魔チックな笑みを浮かべた。
「あ〜、やっぱり河合さんの事好きなんでしょ。それで、最後に思い出をつくろうとか考えてるんだ」
「ち、違うって」
 うろたえる俺を見ながら長塚はうんうんうなずいて言う。
「そういうことにしといてあげるよ。でも、市本君てもっと硬派なのかと思ってたけどな」
 最後の日は河合さんと過ごすんだ・・・
 つぶやくように言う。
「な、長塚にはそういうやつはいないのかよ」
 うろたえまくっている俺の質問に、長塚は急に下を向いて、さびしそうにつぶやいた。
「いるよ。いるけど、私には無理だから・・・」
「な、どうして・・・。そんなこと誰にもわからないだろ」
「ううん。いいんだ・・・」
「誰だよ。その長塚が好きなやつって。俺が出来ることなら協力・・・」
 俺の言葉をさえぎるように、長塚は下を向いたまま言った。
「市本君」
 そのまま机に後ろ向きに腰掛けてしまう。
 ・・・
 今、なんと言いました?
「私、市本君が好き」
 もういちど、自分で確かめるように長塚は言う。
 世界中が逆流しているような気がした。

Next

"Riven",a tiny love story's here