Riven

Back

 放課後、土屋が家までついて来た。「歴史的瞬間を市本と分かち合う」つもりらしい。
 別に断る理由はないので土屋を引きつれて商店街へ回り、ここぞとばかりに商品を買い込もうと思った。
 が、商品はあまりなかった。
 なんでも、不安に駆られた人々(おばちゃんたちらしい)が日持ちのする商品はあらかた買い占めてしまったそうだ。
 「嬉しいような悲しいような、複雑な気分やね」
 八百屋のおじさんはそう言ってビニール袋を手渡してくれた。

 商店街から家に抜ける道は、細い上に灯りが少なく人通りも多いとはいえないので、暗くなり始めると近くでもよく見えなくなることがある。
 通り同士も、細い道が何本も交差していたり行き止まりがあったりと、住み慣れていない人は迷ってしまいそうな道だ。
「おっかない道だな。危ないおっさんでも出そうなところだ」
土屋はキョロキョロしながら俺のあとをついてくる。その挙動不審ぶりは、きっと端から見たらかなりアブなく映るのだろうが、あえて俺は何も言わなかった。

 「いつもながらきれいな家だな」
 玄関に入るなり土屋が言う。何度か来た事があるし俺一人しかいないので、気兼ねもなく居間まで来るとカバンを投げ出しソファに座る。
 その後、二人で二人分の夕食を作り、食べながら記者会見を待った。
 いつもと比べるといろいろなことをしゃべったと思う。二人とも、なんとなく浮き足立っていた。何か、予感があったのかもしれない。
 学校のこと。家での過ごし方。土屋が今ゲーセンで特訓中の格ゲーの話。料理の味付けの話…
 そして。
 そして、記者会見は6分遅れて始まった。
 俺らの漠然とした不安感は、首相の言葉という具体性を与えられ、この世界に現れた。

 「約一ヵ月後に世界は、滅びるだろう」と。

 俺は、無意識に呟いた。「んなこと言われたって、何か変わるのか…」
 土屋は、小声で呟いた。「ファイターズラウンド終わるかなぁ」

 ファイターズラウンドは、土屋が今ゲーセンで特訓中の格ゲーの名前だ。つまり、俺たちにとっては地球が滅びることということは、それだけのことだった。
 このときは。

Next

"Riven",a tiny love story's here