その後、テレビからは実に様々な情報が流れ出てきた。こうして考えるとテレビというものはものすごいものなんだということを改めて実感する。
まるで、テレビは7つ目の感覚のように、世界中から情報を拾い集めてくる。
今も、続々とテレビは俺たちにとって今後1ヵ月に入用な情報を吐き出しつづけていた。
非常に簡単にまとめるとこうなる。
「何も変わらない」と。
公共のもの(各種交通機関、電話、病院、警察、消防etc...)はすべてが終わりを告げる瞬間まで、動き続ける。
また、政府発表ではないが主だったマスコミはその活動を続けるらしい。
そうそう、学校もだ。俺の通っている学校は私立なので、明日になってみないとわからないが。
で、俺に影響のある範囲で今後の変化を考えると、「何も変わらない」わけだ。
「じゃ、そろそろ帰るわ」
そう言って立った土屋を送りに、俺も外に出た。風がさすがに冷たい。街灯に消されてほとんど見えないが、土手まで出れば多くの星が見えるはずだ。雲ひとつない夜空。決して暗くはない夜空。
「しかし、最後の時ぐらいは好きな人を守って、一緒に迎えたいよなぁ」
土屋が冗談めかして言う。
「長塚のことか?」
長塚麻衣は、土屋が惚れている女だ。同じクラス。陸上部。怒りっぽい。ポニーテール。美人。
「問題は俺なんかに守らせてくれるかどうかってとこだけどな」
長塚はクラス中から注目される女だ。競争相手も多い。
「お前なら大丈夫なんじゃないか?」
何の根拠もなく俺は言った。何の根拠もないが、土屋なら何とかしそうな気もする。
「そう願いたいね」
芝居がかった口調で、顔はおどけて土屋は言った。こういう根拠のない自信がある奴は、たいていのことは成し遂げてしまうものだ。
「市本には誰かそういう人はいないのか?」
逆に土屋が聞いてくる。
「…あんまり、興味ないな。俺が誰かを守れるとは思わない」
「たぶんそんな風に言うと思ったよ。だけどな」
そこでいったん言葉を切って、土屋はかっこつけて俺に指を突きつけて言った。
「そういう態度ってのは、なんか人を安心させるんだ。お前はとっつきにくそうな雰囲気をしてるけど、実は根はいいやつなんだってのを俺は知ってるしな。それにもし気づいたら、その子はお前のことをほっておかないぜ」
「そうならないことを願いたいね」
俺はさっきの土屋を真似て、せいぜい芝居がかった口調で言ってみた。言葉と一緒に吐き出された息は、白くなって空に消えた。
「じゃあな。明日学校で」
土屋は俺の言葉にちょっと笑うと、軽く手を振って土手に上がる階段を上っていった。
土屋が階段を上りきって、視界から消えてしまっても俺はまだしばらくその場で空を見上げていた。
この空は後1ヶ月もしないうちに、誰の目にも止まらなくなる。宝石箱には、ふたがされる。
この空を、誰か、守りたい人と一緒に見上げることなどあるだろうか。
もし、守りたい人がいるならば、この空だったら見上げてもいいかもしれないと思った。
失われるはずの世界は、それが失われるとわかったからだろうか、いつもにまして美しく見えた。
"Riven",a tiny love story's here